平日に休むのは久しぶりで、午前中のうちに用事を済ませた私は、家でのんびりしていました。
開けた窓からは心地よい風が通り抜けています。
妻は仕事で子どもたちは学校。だれもいない家は、外のさまざまな音がよく聞こえます。
「ガチャッ」
玄関から、ドアの開く音が聞こえました。
午後2時35分。
そろそろかな、と思っていました。
小学校3年生の娘が、学校から帰ってきたのです。
「おかえり〜」とまだ玄関で靴を脱いでいる娘に声をかけ、私はお菓子を取りに台所へ行こうとしていました。
朝から私は「子どもたちが帰ったらオヤツ」と何かのおまじないのように唱えていたのです。
朝に私は「子どもたちが帰ったらコレを出して」と妻に言われていたので。
そんな私を見るなり、娘が言いました。
「〇〇公園にクマが出たって」
ただいま、でもなく。
いつもの、おなかすいた〜オヤツは?、でもなく。
先生からもらったプリントをランドセルから出し、私に見せてくれるのです。
そこには確かに、○月○日○時頃 〇〇公園に熊が出没・・・とありました。
公園といっても、そこは住宅街に区画されているような公園ではなくて
森林と隣接する、山といえば山な広い敷地の公園ではあります。
それでも、ふだん車でもよくそばを通る場所にあるので、人とクマとの生活圏としては重なり合っています。
娘の口調や表情から察するに、先生からの「クマが出た」という言葉を、娘は少しだけ非日常感を持って受け止めたようです。
だからこそ、ただいまでもオヤツ〜でもなく、クマが出たって!と教えてくれたわけですから。
私はといえば、本当のところ、それほど驚きはしませんでした。以前にも似たようなケースのニュースはありましたし、たまに行くキャンプ場もクマの出没のせいで閉園になったりします。
慣れているのと、幸いなことに直接の被害には遭っていないことで、私の「クマ出没のニュース」に対する感覚は切迫感に欠けています。
娘にしてみれば、お父さんの反応が期待よりも薄かったわけです。
そういえば、数年前に参加したある研修でのことです。講師は東京から来ていた年配の男性でした。研修が始まると開口一番、
「いや〜今朝のテレビ見てビックリした〜。熊が出たってふつうにテレビでやってるんだもん」
そのときの私も、娘に対するものと同じように、あっさりしていたのだと思います。
私が札幌で培ってきたクマに対する感覚を、娘に見られてしまいました。
娘がどのように受け止めたのか、あるいはもうスルーしているのか、いずれにせよ娘も将来だれかに驚かれることがあるのかもしれません。
私とて(いや、誰であろうと)、本当に公園で熊と遭ってしまったら、想像を絶する反応をするであろう。
何年札幌に住んでいたって。